しのばずくん便り

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助っ人〈不忍マピヨン〉のMAP配りの日々(7)

「第七夜・神保町の中心で古本と叫ばなくても」


大雨の土曜日。
明日は日曜で神保町のお店はほとんど休みだから、どうしても今日行かねばなるまい。


古本といえば神保町。古本市の宣伝をするなら避けて通れない町だろう。
古本の王者である町で、よその古本市のマップを置かせてくださいとお願いすると、どういう反応がかえってくるのか。興味もあったし怖くもあった。
雨対策として、リュックにマップを詰めて出かけた。


地下鉄神保町駅に到着。
ポレポレ東中野という映画館に置いてもらえたのだから、岩波ホールにもトライしてみよう。
無謀だ。大御所に今日の出鼻をくじかれる心配はあったが、神保町の駅の真上、真っ先に訪れたいところだった。


10階のホールへ向かう。カウンターで「映画を見ずに申しわけないのですが」と切り出すと、9階の事務所できいてみてとのこと。早速9階へ行き、一つだけ扉のあいている部屋をのぞいてみる。


そこが事務所だった。セーター姿のおじさんにお願いすると、「ああ、いいですよ」と即答なさったので、こちらがびっくりしてしまった。
「これを書いてくださいね」とノートを出された。一瞬ひるんだが、よく見ると来館者名簿だった。


岩波ホールに名を残せるとは。10年以上前、ここでとてもいい映画をみた記憶がある。題名が思い出せない。情けない。丁寧に署名した。


9階から降りるエレベーターが閉まる瞬間、さっきのおじさんがマップをもって、階段を上っていかれるのが見えた。
ゴールデンウィークだったらすぐですね」とおっしゃったので、急いでホールへ持っていってくださるのだろう。ありがたすぎて、申しわけない、かたじけない。


岩波文庫ランボー「地獄の季節」、読了してませんが、ずっと持ってます。
ホールとは関係ないか。


岩波ホールに置いてもらえたのだから百人力である。
雨で人出が少なくて、歩きやすくていいやとまで思えてしまう。


次はすずらん通り、ギャラリーもある文房堂だ。
1階のショップの店員さんは、権限がなさそうだったので、エレベーターで階上のギャラリーへ行ってみた。あいにく展示替え期間で無人だった。
4階の事務所へ行ってみる。エレベーターのドアが開くと廊下がなく、いきなり事務所だった。Yシャツ姿のおじさんに無礼を詫びつつ、お願いしてみた。あっさり受け取ってくださって、またびっくりした。


近くの南洋堂は、建築系の古書店で、たてものもお洒落である。
本をぬらさないように、傘をしっかりビニール袋におさめてから店内をひとめぐりする。
ぶあつい洋書や、大判の写真集が目につく。チラシ類は階段のわきに2、3種類あるのみ。
古本市のマップは置いてもらえるだろうか。


一階のレジで、建築系の学生にも見える店員さんにお願いすると、間髪いれずに「いいですよ」とのこと。おもわず、現物もよく見ず即答していいんですか、と言いたくなってしまった。いやはや感謝感謝である。


どうも神保町は、古本というと即OKの感がある。通行手形を出すような感じ。
古本にやさしい町、王者・神保町。


次は目に入った三省堂だ。連勝つづきで怖いものなしなのである。


1階で、簿記学校のパンフレットなどが置いてあるコーナーを発見。
お客さま相談窓口で、制服姿の女性にお願いしてみたら、「有料ですので、上の事務所で交渉なさってください」とのこと。
有料か。初めてのパターンだ。
芸大と同じく、三省堂にチラシを置いてほしい輩は無限にいるだろう。
世の中が見えてきた。事務所へは行かなかったが、相場を聞いてみればよかったと後で思った。


喫茶「さぼうる」を目指して歩いていると、近くに「ランチョン」というビヤホールがあることを思い出した。雑誌「東京人」で紹介されていたので、行ってみたいと思っていたのだ。
店構えだけでも確認しておこうと、地図を片手に横断歩道を渡る。ランチョンが入っているビルの1階からエレベーターに乗って4階で降りた。
通路の樽の上に、画板ほどの面積の器に入ったデミグラスソースらしきものが、ラップもされずに置かれているのが目に入った。レストランのバックヤードらしい。


ここから店に入れるのかと逡巡していると、白衣のシェフが現れて笑いながら、お店へは1階から螺旋階段をあがってくださいと言われた。
1階へおりて外へ出て2メートルも進むと、大きな螺旋階段があって、どう見てもここが入り口である。傘で視界がせまくなっていたのか。


階段の途中から見上げると、初老の紳士がひとりで食事をしているのが見えた。由緒正しい洋食屋の風情だった。マップは置いていただけそうにないか、と一応検討した。
引き返して道へ出ると、1階の角のショーウィンドウに、腹話術のいっこく堂似の人形が、洋食のテーブルについているディスプレイを見つけた。
なにかが抜け落ちている感じがして、思わず笑ってしまった。


さて、「さぼうる」へ。歩を進めると道の向こう側に、「本と街の案内所」という看板を発見。絶好のマップ置き場ではなかろうか。すぐに横断歩道を渡る。
引き戸の玄関をあけると、ポスターやチラシ、検索用のパソコンが目に入った。


カウンターの坂下千里子似の女性にお願いすると、どうぞどうぞと、すぐに場所をあけて、マップを置いてくださった。
内澤旬子さんのイラストがお好きだそうだ。神保町の出版物でもよく目にされるとのこと。
マップのイラストをみて「あ、もぐら〜」と大層お喜びの様子。こちらもうれしくなる。


「案内所にくる人に、『ゴールデンウィークに神保町は何かしないの』と聞かれるけど、何もないから不忍をご案内しますね」と、うれしいお言葉を頂戴した。
ポスターも、どこにでもどうぞとのことで、目立つところというと、玄関はということになった。


両面テープの強力なのを四隅に貼ってくださり、玄関の外側、神保町のど真ん中に、一箱古本市のポスターがお目見えすることになった。
しみじみと眺めていたら、お墨付きを得た気分になった。


ようやく休憩をかねて、「さぼうる2」でコーヒーを飲んだが、記憶にあったお店と違う。
もっと広かったし、壁に落書きがあったし。迷ったのだが、2がつかない方に入るべきだった。
マップを一応お願いしてみたが、店員さんは首を横に振るばかりだった。
コーヒーは400円だった。


果たして、すぐ隣に「さぼうる」はあった。ちょうど客が入るところで、マスターらしき人が顔を出している。
「いま2でコーヒーをいただいたのですが、古本市のチラシを置いていただけないでしょうか」と、傘をたたむのもそこそこに、お願いした。


即座に、いいですよと受け取られ、そばにいた店員さんに渡し、並べておいてと指示してくださった。
「雨の中、大変だね。がんばってね」と私に何かを差し出す。お店のマッチだった。
感激した。ぬれないよう、すぐバッグにしまった。
トーテムポールのイラスト入りの、赤い素敵なマッチ。


神保町は正真正銘、古本の町だった。


雨はやまないが、神保町の次は銀座である。
地下鉄に乗ってしまえば11分の近さ。
銀座に数多くあるギャラリーにトライしてみようというのである。


銀座グラフィックギャラリー、王子ペーパーギャラリー、資生堂ギャラリー。無謀か。
リクルートが出しているカフェにも行ってみよう。


新橋駅で降りて北上することにする。リクルートR25カフェは外堀通り沿い、記憶どおりの場所にあった。
店内を見渡してみると、チラシ類はひとつも置いていないので、早々に退散した。


銀座グラフィックギャラリーでは、「09 TDC展」に、たくさん人が集まっていた。
とくに入り口に、新入社員とおぼしき15人ほどの集団がいて、「5時までしっかり見て」という声が聞こえた。
たぶん母体である大日本印刷関連の社員だろう。混雑しそうである。


ざっと展覧会をみて、階段下のテーブルに、チラシが3、4種類おいてあるのを確認した。
カウンターの女性にマップの件をお願いしたが、「展示に関係のあるものだけです」と困り顔で丁重に断られた。


残念であったが、あまり期待していなかったことに気づく。


どうも銀座は、古本という言葉を発するのが憚られる雰囲気があるのだ。
神保町からの地下鉄のなかでは、資生堂ギャラリーにも行ってみるつもりだったのだが、銀座を歩いているうちに、なんとなく無駄足のような気がしてきた。
のみならず、疎外感を感じそうで、やめた。


敷居が高い。それもある。
しかし、もっとあるのは、銀座は新品が似合う街だということだ。
ついでに、街の字のほうが、町よりも似合う。


銀座は新年に、新学期に、新生活に、新品をそろえる街なのだろう。
古本と叫ぶことを街全体が拒否している。
神保町とのギャップが大きすぎたか。


一応、王子ペーパーギャラリーへも行ってみる。「ぴあマップ文庫・1996年版」に載っていたギャラリーである。紙の縁で置いていただけないかと、一縷の望みを託す。
しかし、あるはずのビルの一階には、「王子スモークサーモン直売所」が入居している。
ビル名も確認したから間違いない。いつの間に変わってしまったのか。
そういえば地図は10年以上前のものだった。


伊東屋ギャラリーにも行ってみたが、そういう雰囲気ではなく、手ぬぐい展を見ただけ。


銀座はすべて空振りに終わり、靴の中にも水が入ってきて疲労困憊。


「銀座の中心で古本と叫べども唇寒し春のどしゃぶり」


このままでは帰れない。
予定を変更して、別の日に行くはずだった早稲田へ向かう。


東西線早稲田駅を出て、徒歩1分もかからないところに「あゆみBOOKS」はある。
新刊書店であるが、一箱古本市マップ配布先リストに、他の新刊書店があったので、トライしてみる。


まず本を一冊買う。609円也。レジで学生のアルバイトらしき店員さんに、マップの件をお願いした。
奥から店長がでてきて、困った顔で、「うちはこういう趣旨のことは応援できかねます」というようなことをおっしゃった。
そうですよね、失礼しました。と退散する。


古本は新刊のライバルですよね、そうですよね。
マップ配布先リストに載っていた書店は、懐が深すぎるんですよね。
世間の風はもっと冷たいんですよね。


近くの店でスパゲッティとサラダとアップルティーで夕食にする。
足は冷たいままだが、胃袋が温まって少し落ち着いた。


あまりにも疲れたので、最後の目的地でケーキを買うことにする。
これも早稲田駅のすぐそば、「CAFE GOTO」である。


店に入ると、記憶のとおり、ポスターやチラシが目に付いた。
自家製ケーキは5種類。迷った末、かぼちゃのタルトとフルーツケーキを買う。900円也。
マップの件をお願いすると、オーナーの奥様らしき方が、どうぞどうぞとカウンターから出てきて、すぐに置き場を確保してくださった。


ポスターもOKとのこと。なんてありがたい。人の情けが身にしみる夜だ。


早稲田大学応援部のポスター、学ラン姿でエールを切るお兄さんの横に、東京大学購買部で買ったセロテープで、一箱古本市のポスターを貼った。テープの端を、はがしやすいように2mm折りたたむ。


最後に今日の花道を飾ることができた。
銀座で終わらせず、早稲田にきてよかったと思いながら、家路についた。