しのばずくん便り

不忍ブックストリート一箱古本市について 随時 情報を発信します!

助っ人〈不忍マピヨン〉のMAP配りの日々(1)

「第一夜・中野の東で古本と叫びはじめる」


方舟かタヒチか。
すべてはNoah's Cafeから始まった。


2009年のゴールデンウィークに、不忍ブックストリートで開催される一箱古本市の、マップとイベントチラシのセットを配る。
前回は配布先が思い浮かばなかった。
置いていただけそうな店とは、常連としてそういうお願いのできる店のことだろう。
残念ながら、そこまで通っている店はない。


今回は、前回配布先になっていたポレポレ東中野というミニシアターには行ってみようと思っていた。
せっかくだから、周辺で置いてもらえそうなお店を探してから出かけようか。


この界隈で、ポレポレ東中野のカフェ以外に心当たりがなく、ネットで検索してみた。
すると、早稲田通り沿いによさそうなお店を発見。
フェアトレードLOHAS、古本などの言葉がホームページに並ぶ。
Noah's Cafeである。
営業日が少なく、19時閉店とのこと。では明日がちょうどよい。


夕方こちらで食事をして、ポレポレ東中野に回ることにする。
ポレポレ東中野では映画をみるべきであろうが、時間も余裕もなく詫びるしかない。


以前マップをいただきに訪れた際、案内の方が、一箱古本市発起人の南陀楼綾繁さんをご存知だった。そこで今回は、「ナンダロウさんの知り合いです」という伝家の宝刀をぬけば、マップを置いてくださるだろうと高をくくる。


いざ当日、Noah's CafeにJR東中野駅から電話をいれ、18時半のラストオーダーぎりぎりに到着する旨を伝える。女性の声で「お待ちしてます」とのこと。


東中野銀座通商店街をぬけ、早稲田通りを西へ進む。
寺が多いせいか、大きい寺があるせいか、道が暗い。
目印の歩道橋をすぎると、ポッとあたたかい灯りが歩道に落ちているのが見えた。
あれだ。近づくとやはりそうだった。


木の扉をおして入ると、お母さんと呼びたくなる女性が、ひとりで切り盛りしておられる。
「電話した者です」と挨拶しながら席を選ぶ。
視界の端に、古本やチラシの置かれた棚をとらえる。
マップを置かせていただけそうだと思う。


学生らしき女性が一人、お茶を飲みながら本を読んでいる。
近くに専門学校が数校あるから、学生の利用が多いのかもしれない。


キーマカレーと、ブレンドハーブティーを注文する。
ハーブティーは、ヨーロッパのものなどは人工の香りがするので、滅多に飲まないのだが、ひょっとしたらここのはおいしいかもしれないと思った。
フェアトレードLOHASですもの。
産地である本物のアフリカの味がするに違いない。


一息ついて、店内を見渡す。10人も入れば満杯か。
年月を経た木材が印象的。天井が高い。
左の壁に、二階へあがる階段のおなかが見える。
壁とともに漆喰でぬられたそれは、まるでオブジェのようで、お店のアクセントになっている。


もとは一階がなにかの店舗で、奥と二階が住居だったのだろう。
壁にあった商品の棚をとっぱらったら、頭上のすっきりした空間があらわれたという風情。
みょうに落ち着く。


でてきたカレーもおいしい。五穀米とともにしみじみ味わう。作り手の優しさを感じる。
出てきたハーブティーは期待どおりの風味。
刺激の少ない、まろやかなハーブティーは初めてかもしれない。


気がつけば19時5分前。客は私ひとり。
はやく店じまいをなさりたいだろう、長居は禁物。
980円の支払いを済ませ、おもむろにマップを取り出し、おそるおそる「突然ぶしつけなお願いなのですが、古本市のチラシを置かせていただけませんか。」


言いながら、今までチラシを置いてもらうという行為をしたことがなかったことに気づく。
緊張の一瞬。女性はいともあっさり「いいですよ。どちらであるの?」
「しのばずの、谷中とか根津とか・・・」「あー、いいところね」
すぐにチラシ類の棚にスペースをあけて、置いてくださった。
このためにマップは、小さめのサイズなのか、と合点がいった。
ありがとうございます。何度もお礼をいって店を出た。


道は暗いが、心は明るい。
一見の客でも置いてもらえる。となると、常連ではないが数回行ったことのある店でも置いてもらえるに違いない。
行ってみたかったお店も、これを機に行ってみようか。


来た道をもどって、ポレポレ東中野に到着。一階のカフェは定休日で閉まっている。
地下へ続く階段の壁づたいに、チラシが整然と並んでいる。
これだけ置いているのだ、ノーとは言われないだろうと思う。


入り口のカウンターに、女性がふたり立っている。どちらに向かってともなく切り出す。
「ナンダロウアヤシゲさんの知り合いのものですが、古本市のチラシを」
歌手のaiko似の女性が、露骨に冷たい視線を投げかけてくる。
いやなことでもあったのか、それともそんなに無理なお願いだろうか。
一青窈似の女性が、笑顔で「いいですよ」と、ポスターまで受け取ってくださらなかったら、ここでマップ配りにくじけていたかもしれない。


初日、とにかく2ヶ所置いてもらえた。晴れ晴れと家路についた。


(後日談。Noah's Cafeは2009年5月24日をもって閉店とのこと。残念である。先日不在だったオーナーは、一箱古本市をご存知で、出店の手伝いをなさったこともあるという。奇遇である。お店は看板屋だったところで、ドアや窓をはじめ、内装もすべてオーナーのセンスで改装したとのこと。すばらしいの一言である。)