しのばずくん便り

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花歩さんの格子戸

谷中の路地の片隅、ゆき過ぎた歳月を思わせる木製の格子戸が、訪れる人を迎え入れてくれます。なかへ足を踏み入れれば、そこには土間と上がり縁。思わず「お邪魔します」という言葉が口をついて出てしまいます。
それもそのはず、花歩は築50年になるご自宅の1階部分を改築して作られたカフェなのです。10年前、縁あってこちらのお宅へ移られた際には、一家総出で日曜大工に励んだのだそう。花歩を開業する折も、床の張替えから照明選びまで、できるところはすべてご自分の手でなさったそうです。「この家にはずいぶん遊ばせてもらっています」と主婦でもある花歩のご主人は微笑みます。
そんなご主人のこだわりは、箪笥や火鉢など、お店に置かれた調度品にまで宿ります。そのほとんどが昔からの愛用品だという家具は、古美術品のような重厚感ではなく、家族みんなで使いこんだ温かみを伝えてくれます。「道具は使ってあげなくちゃ」というご主人の言葉どおり、もちろんすべてが現役。冬には今でも火鉢に火を入れるのだそうです。
陽だまりのなか、温もりある家具に囲まれてご主人自慢の珈琲をいただいていると、心の一隅にふっと灯りが点ったようで、なんだか優しい気持ちになります。「どうぞ何時間でもゆっくりしていってください」とご主人。実際ここで丸一日過ごされたお客さまもいらっしゃるとか。つい長居してしまいたくなるその心もち、一度花歩を訪れればきっとうなずけることでしょう。
仕事が一段落すると、ご主人は部屋の一角にある手仕事スペースに向かいます。ここで好きなものを作るのもまた、ご主人が大切にされる時間。特に蝉をかたどった巾着の小物入れは、お客さまに大好評。『谷根千』(79号)に掲載されたこともあって、その評判はあっという間に広まり、今では予約待ちが出るほどの人気なのです。一針一針手で縫いあげるのは大変な作業ですが、それゆえ大切にしてもらえると喜びもひとしお。「毎日持ち歩いてぼろぼろになったからと、もうひとつお願いされたときには、本当に嬉しくて」。そう言ってご主人は頬をゆるめます。
珈琲と一緒に優しい気持ちもお裾分けしてもらい、「お邪魔しました」と格子戸をくぐると、ご主人が丹精こめて育てた藤の花が、私たちを見送ってくれました。  (青秋部I&N)

*花歩ご主人の愛読書
「雑誌では『サライ』『銀花』、小説では池波正太郎さんが好きで、よく読んでいます。それから主人が古本屋で買ってきてくれた『サザエさん』全巻も大切にしています。」

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*花歩
台東区谷中3−21−8
営業日 月〜金 10時半〜18時
※当面の間、営業日は月〜水、10時半〜18時 (2009年4月10日)