しのばずくん便り

不忍ブックストリート一箱古本市について 随時 情報を発信します!

「乱歩゜」  少年の甘美な悪夢が潜む喫茶空間

三崎坂をのぼってゆくと、「D坂より308歩゜」と記された怪しい看板が、木々の間からひょっこり顔をのぞかせます。D坂とは、江戸川乱歩作『D坂の殺人事件』の舞台となった団子坂のこと。そこから308歩のところに喫茶店を開かれたご主人が、乱歩の名前から店名を頂戴しつつ、その偉大さに敬意を表して「乱歩゜」と半濁点をつけられたことは、あまりにも有名な話です。
光の侵入を拒むかのような薄暗い店内には、これまた怪しい置物が所狭しと並べられ、妖気すら感じます。「うちは遠くからひとりで来てくれるお客さん、猫好きのお客さんが多いね。声をかけられないかぎり、こちらから話しかけたりはしない」とおっしゃるご主人。その寡黙な後ろ姿や、「2時間居たら再オーダー。人数分たのみます」などの容赦ない手書き張り紙からは、厳格な人物像が思い浮かびますが、ひとたび店内に用意された『楽我記帳』をめくれば、お客さまからの愛情あふれる書きこみでいっぱい。乱歩゜の看板猫、良介くんの似顔絵つきの書きこみも多く、根強いファンの多さをうかがわせます。
5月にこちらで「乱歩派の夢展」と題した展覧会を開かれるという室井亜砂二さんは、「ぼくたちは大人になった今もなお、乱歩の甘美な悪夢にうなされているのでは」とおっしゃいます。「おそらくぼくたちは、怪人二十面相に誘拐された少年のひとり。この空間に出会ってその悪夢を思い出した」という室井さんは、ここ乱歩゜に充溢する乱歩的雰囲気のなかで、「大人の乱歩ごっこ」をしようと思いついたのだとか。乱歩゜のそこここに潜む暗闇をのぞけば、そんな風に想像をたくましくするのもうなずけます。 (青秋部I&N )

昨秋よりギャラリーとしても店内を開放なさっているそうで、第1回目は乱歩゜で働く綺朔ちいこさんが、ご自身の作品を展示されたそうです。4月24日(火)から一箱古本市当日の29日(日)までは、中里和人さんの写真展「東亰」を開催。つづいて5月15日(火)〜20日(日)までは、取材にもご協力くださった室井亜砂二さんの「乱歩派の夢展」が開催されます。展示をご覧になる際には、お一人さまワンオーダーお願いします。

*乱歩゜ご主人の愛読書
「3日で1冊読むもんだから、そこから1冊だけ選ぶってのは難しいねえ。最近読んだなかでは『カウントダウン・ヒロシマ』がおもしろかったよ。あとエド・マクベインの87分署シリーズは好きだね。」
『カウントダウン・ヒロシマ』スティーヴン・ウォーカー著 早川書房

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*乱歩゜
台東区谷中2−9−14
営業時間 10時〜20時
定休日  月曜日(祝日の場合は翌火曜日)