しのばずくん便り

不忍ブックストリート一箱古本市について 随時 情報を発信します!

 weekイベント・レポート

『ゆゆテルミン・ミニライブ』まったり・はらはら・どたばたレポート

最近のわたしの友人は、おもに次の3つに分類できる。
 (1)翻訳関係
 (2)轟音ロックバンド関係
 (3)不忍ブックストリート関係
(3)の人々にだまされて(!?)新実行委員となったわたしは、2009年春の一箱古本市でWeek企画を担当することになった。

一箱古本市の会場のひとつ、特養老人ホーム千駄木の郷には、レトロな雰囲気の素敵なラウンジがある。元国鉄総裁の家から移設されたというステンドグラスがかっこいい。(3)の会議で、一箱古本市当日にここで誰かに音楽を演奏してもらったらどうかという話が出た。しかしわたしの音楽関係の知り合いはほとんど(2)、すなわち轟音ロックバンドの人だ。老人ホームのラウンジで轟音はちょっと……とは思いつつ、もしかしてアコギの弾き語りをやる人ならいるかもね、と軽い気持ちで呼びかけてみた。

「お友達のテルミン奏者(すてき女子)に声をかけてみましょうか?」
返事をくれた友人は(1)だが、実は(2)の大半はこの人を通じて知ったのだ。しかしまさか、テルミンという隠し玉まで持っているとは!

そしてさっそくご紹介いただいたのが、テルミン奏者のゆゆさん。小柄なかわいらしい女性で、ふだんはライブハウスなどでポストロックやチェンバーポップのバンド活動をしている。谷根千が大好きで、いつか特養老人ホームで演奏してみたいと思っていたとのこと。即、ご快諾をいただく。すごい、とんとん拍子だ。いやそれはいいけど、だいじょうぶなのか、わたし? (2)については自分が活動に加わっているわけではなく、あくまで聴くほう。ただのミーハーなので、楽器に詳しいわけでもない。そのうえ、これまでイベントを企画したことなんて一度もないのに。

しかしすでに物事は動き出し、実行委員のみんなも乗り気だ(汗)。こうなったら演奏者さんに気持ちよく演奏してもらって、たくさんのお客さんに聴いてもらえるよう全力を尽くすしかない、と覚悟を決めた。ゆゆさんにラウンジを下見してもらい、電源や機材などを確認。マイクスタンドだけこちらで用意できないかということだったので、古書ほうろうに置いてある近藤十四郎さん(谷根千の顔的ミュージシャン)のマイクスタンドをお借りできないかとお願いし、快く了承していただいた。ゆゆさんがはりきって素敵なフライヤーをたくさん作ってくださったので、宣伝もばっちり。演奏にはギタリストのコイデさん((2)つながりのわたしの友人でもある)とピアニストのまゆみさんも加わることになった。

そしていよいよ5月4日のライブ当日。前日の古本市と同じく、本日もお天気は上々。会場の千駄木の郷の遊歩道では、すでに古本市の店主さんたちが木陰で箱を広げている。しばらくすると、ゆゆさん、コイデさん、まゆみさんが車で到着。おおっ、ゆゆさんはすでにお着物姿。ラウンジのレトロな雰囲気にぴったり。セッティングとまゆみさんの着付けが終われば準備万端なので、13:00まではまだまだ余裕がある。

しかしその考えは甘かった。ゆゆさんがアンプにつなぐマイクのジャックを忘れてきてしまったのだ。あわてて千駄木の郷のスタッフや古書ほうろうにきいて回ったが、残念ながら調達できず。演奏に支障はないが、MCがお客さんの耳に届きにくくなってしまったのがちょっと残念だった。こういうのも、わたしが機材に詳しければ事前にきちんと確認できたのになあ……。

それはまあしかたがない、とあきらめたところで、デジカメを家に忘れてきたことに気づく。自転車を飛ばして取りに行く。ラウンジに戻ってカメラのスイッチを入れたら、なんとバッテリー切れ。自転車を飛ばして充電器を取りに行く。ラウンジのコンセントでこっそり充電。やれやれ、と思っていたら、当日配るチラシをこれまた家に忘れてきたことに気づく。自転車を飛ばして取りに行く。いくら往復5分でも、3往復すれば疲れるよ!!

こんなことをしてるうちにあっという間に13:00になり、1回めのライブスタート。お客さんは、ラウンジのテーブルがちょうど埋まるくらい。

演奏曲目は、

クラシックの名曲から昭和の歌謡曲まで。のんびりまったり、不思議な音楽。ホームのお年寄りもちらほら来てくれて、「丘を越えて」が始まるとうれしそうに首を振ってリズムを取っていた。ゆゆさんの呼びかけに応じてテルミンの体験演奏や質問をする人もいて、なごやかなムードで終了。わたしもテルミンを初体験させてもらう。手をかざしたらボウ〜〜という野太い音がしてびっくり。小柄なゆゆさんが出すホワ〜〜という柔らかい音とは大違い。演奏する人の体の水分量によって音が変わってくるそうだ。つくづくおもしろい楽器ですね。

近所のおにぎり屋さんへ買出しに行って腹ごしらえ。15:00から2回めのライブスタート。立見が出るほどの盛況ぶり。(2)の友人がほとんど総出で来てくれた。(3)のみなさんも古本市の仕事で忙しいはずなのに、合間を縫って顔を出してくれるのがうれしい。

1曲めはシューベルトの「アヴェ・マリア」。あとからゆゆさんに聞いたところによると、この曲は一昨日亡くなった清志郎のために演奏したそうだ。美しい旋律に耳を澄ましていると……。
「へっくしょい、ずずうっ(はなをすする音)」
ちょっと、そこのおにいさんっ。もう少し遠慮してくださいっ。しばらくのあいだくしゃみにいさんに気を取られ、ふとステージのほうに目を向けると……。

今度は反対側で、おっちゃんがゆゆさんにかぶりつきで写真を撮っているではないか! テルミンはむやみに近づくと演奏に影響が出てしまう繊細な楽器。ちょっとやめて〜!と冷や汗だらだら。ようやくいなくなってほっとしたのも束の間、後半はっと気づくとふたたび現われて同じことしてる……。今度来たら首を絞めてやる!とばかりに、入り口付近に仁王立ちになるわたし。でももう来なかった。とりあえず演奏に支障がなくてほーっとする。

演奏曲目は、

はらはらする場面もあったが、2回めのライブも大好評のうちに終了。片づけをして、わたしはとりあえず古書ほうろうに近藤さんのマイクスタンドを返しに行った。保健所通りを歩いていると、向こうから自転車に乗った見覚えのある人が……。えっ? 近藤さん(笑)!? 今まさに腕に抱えているマイクスタンドの持ち主が、正面から現われた。思わず呼び止めて、ご挨拶。お借りするときは古書ほうろうを通じてだったので、直接お礼を言えてよかった。まあ、マイクが使えなかったので、せっかくお借りしたマイクスタンドもむなしく立ってただけなんだけど。

いったん会場に戻ったあと、(2)の友人たちとの打ち上げに向かうゆゆさんたちと別れ、わたしは一箱古本市のほうの店主さんの表彰式に出てから、スタッフの打ち上げ飲み会に参加。2日間の一箱古本市の締めくくりとあって、みんな思いきりはじけていた。そりゃそうだよね。数カ月のあいだ、この日をめざしてがんばってきたんだから。最後には誰でも彼でも前に引っぱり出してひと言を強要するという最悪の酔っ払いパターンに(笑)。わたしには何も言うことなんてなかったけれど、ナンダロウさんが「あのテルミンの企画はすごくよかった!」と褒めてくれて、みんながわーっと拍手してくれたときには、やっぱりうれしかった。あすからすぐ仕事に戻らなければならないわたしは、23:00に店を出た。すると、向こうから(2)の打ち上げ帰りのコイデさん(ギタリスト)が歩いてきた。「みんなに褒められたよ! ありがとう!」と伝えて帰宅。

あと1分歩き出すのが遅かったら、近藤さんともコイデさんともすれ違っていなかったはず。なんだか不思議な一日だ。小さな偶然、小さな奇跡。その積み重ねでこのライブも実現したんだよなあ。(1)、(2)、(3)のみんなに栄光あれ。本当にありがとう。(キリヤ)