しのばずくん便り

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1月の茶話会「電子書籍の最前線」リポート

12日の茶話会は私企画で、大手印刷会社の電子書籍事業の責任者である福田さんをお招きして、「電子書籍の最前線」というテーマで話をしてもらった。当日はこの冬一番の寒さだったけど、11名の方が参加してくれた。感謝。銀行員の私以外は、編集者、翻訳者、校正者、書店員などすべて出版業界。
まず、話題は活版印刷時代の苦労話に。「福田さんのとこの印刷会社の工場につめて、活字拾いました」とか「あの工場、一回入ったら出られないんですよね」とか、みんないろいろ思い出があるようだ。苦労を知らない私からすると、いい時代だったんだなと思う。
ちょうど前日、大手通信会社との電子書籍サービスの開始を発表してマスコミ対応の熱気も冷めやらぬご様子の福田さんは、資料としてNews Releaseと端末3機種を持参してくださった。ここから、みんなのモードが一気に変わった。「ルビはどうなるんですか?」「脚注はどうするんですか?」。実際に本作りにかかわってきた人たちの質問は具体的だ。とくにナンダロウさんは、ソフトにもむちゃくちゃ詳しい。そして、電子本でこんな本作ったらおもしろいんじゃないか、というアイディアもたくさんもっている。さすが、元『本とコンピュータ』だ。電子書籍はモノじゃないから所有権が主張できない問題、アメリカの出版事情などにも話はおよんだ。
日本語の本を電子化するにはさまざまな問題があるようだ。紙の本を単純にスキャンして電子化すればいいってもんじゃないようだ。技術的な問題もあるし、法的な問題もあるし、日本の出版文化の事情もあるし、作家さんの魂が込められていたりもする。電子書籍は在庫コストがかからない、というのもどうやら誤った認識のようだ。印刷会社は巨大なサーバーをかかえ、一瞬にして失われるというリスクを回避するためのバックアップの多大なコストも支払っているのだ。
みなさんのやりとりを聞いていて私がいだいた感想は、電子書籍はまだまだ英語圏で、アメリカみたいな、町の本屋さんがなくて、車を飛ばして大型書店に行くか、ネットで買うか、といった文化の国のものなんだなーということだ。「黒船、来襲!?」なんて2010年の話題をさらった電子書籍だけど、電子本には書かない宣言した人気作家さんもいるらしいし、出版社は及び腰みたいだし、肝心の本好きも、「端末何買ったらいいか分からない」状況なので、黒船が本格的に上陸するか、否かは、手頃な端末と、電子書籍でしか読めない魅力的なコンテンツ、結局それにかかっているようだ。
もともと大のミステリー好きで、老後の楽しみのためにミステリー全集を取り寄せたところ、「字が小さくて、読めない! ならば、電子本で文字を大きくして読みたい」というのが仕事の原動力になっている福田さんも、「単なる紙の本のコピーじゃダメなんだ」ということを強調しておられた。
今のところ電子本は自分とは関係ないと思っている私だけど、「黒船来襲」をきっかけに、日本の技術力と斬新な発想で、私たちの生活に合った新しくて便利な読書スタイルが生まれるなら、それはそれでちょっとワクワクしたりする。(195)

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実行委員のひとり「195」さんは、これまでに「books 195」の屋号で何度か一箱出店していますし、一箱古本市weekの企画もいくつか手がけています。出版業界外と言いつつも、じつは顔が広くて、今回の茶話会が実現しました。