しのばずくん便り

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旧安田楠雄邸  千駄木の大いなる歴史遺産

団子坂上から動坂上まで続く、通称保健所通りを歩いてみると、広々とした敷地に意匠を凝らした和風・洋風住宅の数々を目にすることができます。それもそのはず、かつてここは「銀行通り」と呼ばれるほど多くの銀行家が居を構えた、お屋敷町だったのです。
その名残を唯一今にとどめるのが、この界隈で一際目を引く旧安田楠雄邸。普段は門が閉じられ、外側からは敷地内の木立と住宅の一部しか見えませんが、その佇まいから内部に広がる世界への想像力がかき立てられます。都の指定名勝にもなっているこの旧安田楠雄邸は、その名のとおり、かの安田財閥をつくった安田善次郎氏の孫にあたる安田楠雄さんがお住まいになっていました。現在は財団法人日本ナショナルトラストが保有し、毎週水曜日と土曜日に一般公開されています。
旧安田邸が建てられたのは、大正7(1918)年。当初は、「豊島園」の創設者として知られる実業家・藤田好三郎氏の所有でしたが、大正12(1923)年に安田善四郎氏に売却され、以後平成7年まで楠雄さんの家族の住まいとして使われてきました。さすがは普請道楽、藤田好三郎氏の手になるもの、建物の隅々に手の込んだ細やかな配慮がなされています。さらに驚くべきことに、襖やカーテン、調度品などは80年前とほとんど変わっておらず、邸宅に一歩足を踏み入れると、大正時代にタイムスリップしたかのような錯覚を覚えます。
旧安田邸が現在のように一般に公開されるようになったのは1998年から。これは安田家の方々のご好意と、たてもの応援団、たくさんのボランティアの保存活動によって可能になりました。その中心人物のおひとりが、日本ナショナル・トラストの元事務局員・多児貞子さん。「たくさんの人が来てくれるのは嬉しいのだけれど、建物のことがちょっと心配で…」とおっしゃる多児さんからは、安田邸に対する限りない愛情が感じられます。多児さんのお薦めは、5月3日、4日、7日に公開されている五月飾り。昭和10年誕生のご長男の初節句の祝いにあつらえられたというこの五月飾りは、名高い人形作家・永徳斎の手になる逸品で、今日ではほとんど見られない貴重なものです。なお5月3日と4日には、お抹茶の接待(500円)もあります。
「歴史のなかには未来がある」と多児さん。昔の人の暮らしのなかから、現在に生きる知恵を探してみてはいかがでしょうか。(青秋部I&N)


*見学の際は、建物、調度品にくれぐれもご配慮ください。特にふすまや障子、ガラスなどは取り替えのきかないものです。ご協力お願いいたします。


*多児さんの愛読書
『節季の室礼―和のおもてなし』小林玖仁男著 求龍堂
「四季折々の行事を、現代風にアレンジ。和風住宅の可能性の広さに気付かせてくれます。」

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*旧安田楠雄邸
http://www.toshima.ne.jp/~tatemono/index.html
公開日 水・土 10時半〜16時(入館は15時まで)
入場料 500円(維持修復協力金)