しのばずくん便り

不忍ブックストリート一箱古本市について 随時 情報を発信します!

バール・オステリア・コムム

バール・オステリア・コムム

あちらから来る人とすれ違うのがやっと、という言問通りの狭い歩道をのぼってゆくと、突然右手がぱっと開け、猫足テーブルの置かれたオープンスペースが現れます。それがバール・オステリア・コムム。この10月でちょうど開店2周年を迎えるイタリアン・レストランです。
とはいえ「イタリアン・レストラン」という括りは、コムムにとっては、少し窮屈なものかもしれません。私たちにそう思わせたのは、宮沢シェフの「どんな店かは、お客さまに決めてもらいたい」という言葉。実際、食事をするお客さまの横で、ワインやチーズだけ楽しむ人、コーヒーを1杯飲んで帰っていく人など、十人十色、様々な使い方をされているのだそう。それこそまさに、ここが「バール(カフェバー)」であり「オステリア(レストラン)」である所以なのでしょう。
そんなコムムの自慢は、南房総で磯料理屋を営むシェフの実家から直送される、新鮮な魚介類。季節ごとに旬のものが届くのはもちろん、収穫によって毎日違う魚が届くので、それに合わせてメニューも日々更新。それゆえコムムのメニューはいつも日付入りなのです。魚4〜5匹を丸まるトマトで煮こんだ看板メニューの「ズッパディペッシェ」も、実は一皿ごとに中身が違う、なんて日もあるのだそうです。
もうひとつの自慢は、薫り高いエスプレッソ。フロアを切り盛りする笹子さんが、日本に約10台しかないというエスプレッソマシーンを使って丁寧に淹れてくれます。
さらなる自慢は、おふたりの体内イタリア度の高さ。しばらくかの地を離れていると、度数がぐんぐん下がってきてしまうので、年に1度はイタリアへ渡り、その時々のおいしいものを思うさま味わってくるのだそうです。バールに立ち寄ってお薦めのレストラン情報を仕入れたり、アパートを借りて1ヵ月間自炊しながら暮らしたりと、様々な方法でイタリアを楽しんでいらっしゃるおふたり。偶然同じ時期にイタリアへ行くというお客さまと、あちらで待ち合わせて食事をしたこともあったというから驚きです。イタリアで撮ったという料理写真の数々を前に、思わずつばを飲みこんでしまった私たちでした。(青秋部I&N)

日ノ下慶二さんと日下部史貴さんをお招きして、月に1度「JAZZ Night」を開催。日にちは店舗前の黒板でご確認ください。


*バール・オステリア・コムムご主人の愛読書
宮沢シェフ『日本の海水魚(山渓カラー名鑑)』山と渓谷社
「送られてくる魚のなかに、見たこともない魚が交ざっていることがあるので、これで確認しています。それでもわからなければ、実家に電話してどんな調理法が適しているか訊き、イタリアンに翻訳します。」
笹子さん『土着品種で知るイタリアワイン』中河原まゆみ著 産調出版
「同じ葡萄でも、地域ごとに色々な呼び名があるので、重宝しています。お店に来るお客さまに「とりあえずスプマンテ(スパークリングワイン)」と言ってもらえるようになりたいですね。」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
*バール・オステリア・コムム
台東区谷中1−2−18
営業時間 14時〜22時30分(LO)
定休日 火曜日
 

shinobazukun2007-10-10

日差しに照らされた木々の緑とブロック壁が、まあるい空気を織り成す三浦坂。そのてっぺんにある宗善寺は、浄土真宗大谷派のお寺です。創建の時期ははっきりとはわかりませんが、もともとは池之端にあったそうで、江戸時代の古地図にはすでにその名が刻まれています。
あまりにも立派な門構えに、足を踏み入れるのをためらってしまいますが、「散歩の途中にでも気軽に立ち寄ってください」とご住職の娘さんである山名さんは微笑みます。お言葉に甘えて境内へ歩を進めると、途端に視界が開け、墓地の向こうに根津や池之端を一望できます。緑に囲まれた東屋からその景色を眺めていると、坂をのぼってきた疲れもどこへやら。日の沈むまで飽かず眺めてしまいそうです。
そんな宗善寺は、時にネパール展の舞台に早変わり。かつて大学の授業中に、「ネパールに行きたい人」と問われて手を挙げたのがすべての始まりだったと山名さん。日本画を勉強していた山名さんは、スケッチでもしてこようという軽い気持ちで応募したはずだったのに、約1ヵ月の滞在中「楽しすぎて全然絵なんて描かなかった」とのこと。代わりにネパールダンスや曼荼羅を習ったり、小学校を訪問したりして、多くの人と知り合い、温かいものをたくさんもらって帰国したのだそうです。
今度はそれにお返しをしようと奮起。ともに旅した仲間と、学園祭でネパールダンスを踊るなどして募金を集め、再びネパールへ。現地に学校を建てるといった大仰な活動ではなく、「私たちらしく、もっと気軽に楽しくみんなに会いに行ける関係を築きたい」と考え、たとえ少しずつでも、より多くの子どもたちに届く支援活動を始めたのだそうです。
1999年以降、それが「ムスムス(笑顔)絵画コンテスト」というアートイベントとして結実。ネパールの小中学生に書いてもらった絵を宗善寺の壁に貼り出し、通りすがりの人による投票結果をもとに、美術の授業のない学校に絵の具を届けるなどして、子どもたちに笑顔を贈っています。
「ネパールの人は、みんな穏やかで優しい」とおっしゃる山名さん。現在は日本で暮らす旦那さんも、実はあちらで知り合ったネパールの方なのだとか。裸足で元気一杯に境内を駆けまわる息子さんに、遠くネパールの子どもたちの笑顔が重なって見えました。(青秋部I&N)

先頃、大塚にネパール料理のお店「デウラリ」をオープン(南大塚2−40−11 11時〜23時 年中無休)。ネパールカレーをはじめ、チーズナンやサモサ、モモ(カレー味の蒸し餃子)などのメニューが並びます。11月には白山にも2号店をオープン予定だそうです。


*宗善寺 山名さんの愛読書
『河童が覗いた……』シリーズ 妹尾河童著 新潮社
「絵が細かいので、ディテールまでよく伝わり、本当にそこへ行った気分になる。想像力が貧困な私にはぴったりの本です。」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
*宗善寺
台東区谷中1−7−31

ライオンズガーデン

三崎坂の中腹にあるライオンズ・ガーデン谷中三崎坂。藤棚が作りつけられた壁面や手入れされた植木、道行く人々の休憩のために設置された木製のベンチ、前面4階建ての圧迫感の少ない作りなど、ここはマンションでありながら、町と往来の人々への様々な配慮が感じられる場所になっています。それもそのはず、このマンションには谷中の町を愛する人たちの思いが込められているのです。
この地にマンション建設計画が持ち上がったのは1998年。当初の計画では、9階建て、戸数49の近代的な外観のマンションが予定されていました。寺町で低・中層の建物を中心とした谷中界隈では、異色の建物。このままでは町の景観も人のつながりも失われてしまう、と危惧した住人有志は、繰り返し建設者側との協議を行いました。その熱意が実り、日本では他に類を見ない、町に配慮したマンションへと計画が変更されたのです。
一箱古本市でお借りするマンションの共用スペースも、人々の思いが結実したもの。この場所は以前から、祭のお神輿の休憩場所になっていました。マンションを作るのであれば、今までの町の成立ちを考慮してこの場所を残してもらいたい。そんな思いが、このスペースの存続につながりました。現在では、お神輿の休憩場所としてはもちろん、圓朝祭(現・圓朝記念 落語協会感謝祭)の救護室など、マンション住人の方々と地域の人々との交流の場として利用されています。
「町は人のつながりを生み出すんだ。町が人間を作る。町が壊れたら、人のつながりも失われてしまうよ。」これは1965年からこの地で町を見守り続けてきた野池さん(谷中地区町会連合会会長)の言葉。町を愛する多くの方々の思いが、谷中という町を作っています。谷中の魅力とは、そんなお一人お一人の魅力でもあるのです。(青秋部I&N)


*ライオンズガーデン住民Tさんの愛読書
千利休とその妻たち』上下 曽野綾子著 新潮文庫
勅使河原宏監督の映画『利休』の描写とうまく重なって、何度も読み返しました。お茶と歴史と宗教という3つのキーワードに、感性を刺激されます。」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−

*ライオンズガーデン谷中三崎坂
台東区谷中4−4−32

取材を終えて

青秋部が担当した「大家さん紹介」の連載は、今回をもって終了とします。実行委員会のメンバーである古書ほうろう、往来堂書店、オヨヨ書林谷根千工房の4ヶ所と、しのばずくん神社は除きましたので、ご了承ください。ヨネスケ顔負けの突撃取材に快く応じてくださった10店舗の大家の皆さま、ご協力ありがとうございました。

取材を終えて、強く印象に残ったものはふたつ。まちへの愛着と、日々の生活・暮らしをこそ大切にする心でした。アートスペース・ゲントのご主人、政所さんがおっしゃっていたように、谷根千の人たちは、家という閉じられた空間ではなく、まちそのものに住んでいるのだということを、改めて実感させられました。不忍ブックストリート一箱古本市が、そんなまちの人たちに愛されるイベントとして定着すればと思います。そして皆さま、秋もよろしく! (青秋部I&N)

いろはに木工所

いろはに木工所


「色々見たんだけど、ちょうどいいものがなくて……」。ここを訪れるお客さまの多くが、同じ言葉を口になさるそうです。そんな方のために、ぴったりのものをいちから手作りするのが、ご主人のお仕事。コンセプトは「あなたの町で暮らしのお手伝い」。肩肘張った特別なものではなく、日々の暮らしに溶けこむ普段使いの品々を作っていらっしゃるそうです。もちろんすべて木で作るので、傷や変色はつきもの。「それを長く使い続けることで、その人のものにしていってほしい」とご主人はおっしゃいます。
かつては住宅の設計に携わっていたというご主人は、仕事をするうち、自分の手でなにかを形にしたい、作りたいという思いが日増しに強くなっていくのを感じ、退職。職業訓練校を経て、ついには木工作家・井崎正治さんのもとに弟子入りなさってしまったそうです。そこで約6年間スタッフとして働き、「木を触って毎日を過ごせたらいいな」という漠とした思いを抱えて根津へ越してこられたご主人でしたが、それはやがて「この地で木工をやれたら」という願いへ。そうして2005年5月、いろはに木工所をオープンされたのだそうです。
もとは印刷所だったという物件を、ご自分の手で改修。店舗の奥に工房を設け、平日はほとんどそこにこもって作業をなさっているそうです。なかを覗かせていただくと、削りたての新鮮な木の香りが匂いたち、ここがまさしく「木工所」であるのだと、私たちに教えてくれます。
そんな工房で作られる品々は、木の素朴な柔らかさとともに、凛とした気品をまとっているように思います。それはきっと、世界にただひとつきりしかないものだから。ご主人は、ひとつひとつ手をかけてこつこつ作りあげる、という語感から、「いろはに」という店名をつけられたそうですが、ここに並ぶ木工品を見ていると、その真摯な仕事ぶりが目に浮かぶようです。
「いちから作るのでお時間はかかってしまいますが、こんなものできるかな、とどうぞお気軽に尋ねてください。縁側で世間話でもするような感覚でかまいませんから」と自作の濡れ縁を指し、ご主人はゆったりと微笑んでいらっしゃいました。 (青秋部I&N)

*くるみの木をけずる 匙、箸ワークショップ(各回定員10名)
匙づくり 4月30日(月)、5月4日(金) 10時〜12時 2000円(中学生以上)
箸づくり 5月5日(土)、5月6日(日)  10時〜12時 1800円


*いろはに木工所ご主人の愛読書
『あるきだした小さな木』テルマ・ボルクマン著 シルビー・セリグ絵 偕成社

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

*いろはに木工所
台東区谷中2−15−13
営業日  土・日・祝 13時〜19時

根津教会


1919年に建てられた根津教会は、のちに首都圏を襲った関東大震災東京大空襲というふたつの衝撃にも耐え、約90年もの長きにわたってこの地を見守り続けています。それだけの歴史ある木造西洋館が、創建当時と変わらぬ姿で東京に残されていることは珍しく、2001年には有形文化財として文化庁に登録されたそうです。ところどころペンキの剥げた壁や、ゆがんだ梁、かすかにきしむ床が、多くの人々の手によって大切に守られてきた長い歳月を物語っています。
そんな教会で1999年より牧師を勤められているのが、鍋谷憲一牧師。かつては商社マンとして世界を飛びまわっていた牧師は、現在もその外交手腕を遺憾なく発揮。「ご近所外交」と称して居酒屋に顔を出されたり、町内会の夜回りで拍子木を叩かれたりすることもあるそうです。鍋谷牧師が夢見られているのは、町の人々に心から親しまれる教会の姿。「地域とつながってゆくことが、教会の使命」だと語られる鍋谷牧師は、多くの人が教会に足を運んでくれるよう、着任直後より様々なイベントを催されてきました。
たとえば毎年4月29日のみどりの日(今年は28日)には、バザーを開催。衣類や書籍、手芸品、手作りケーキなどの販売のほかに、喫茶店も開き、訪れる人の憩いの場となっています。またコンサートや写真展、さらには落語会にまで礼拝堂を提供。「信徒でなくたってかまわない。たとえ年1回でも、これが教会へ来るきっかけになれば」と鍋谷牧師はおっしゃいます。実際、信徒でない方も、バザーや聖歌隊に参加されているとか。
「教会は決して特別な場所じゃない。たとえば、もやもやした悩みを抱えているときにふらっと立ち寄れる、そういう場所でありたい。どうぞ気軽に入ってきてください」と鍋谷牧師。「気持ちはいつでもオープンだからね」と豪快に笑われるその姿に、つい悩みを打ち明けてしまいたくなるのでした。 (青秋部I&N)

*根津教会バザー 4月28日(土)11時〜14時半

*根津教会 鍋谷牧師の愛読書/著書
徳川家康山岡荘八 講談社
『もしキリストがサラリーマンだったら』鍋谷憲一 阪急コミュニケーションズ

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

*根津教会
文京区根津1−19−6
http://www15.ocn.ne.jp/~nzc/

「ギャラリーKINGYO」 外部と内部がゆるやかにつながりあう空間

  

路地の一角、緑に映える赤い看板が眼に入ったかと思うと、突如涼やかなコンクリートの土間が広がります。それはまさに都会のポケットパーク。実際、散策途中に一休みされていく方もいらっしゃるとか。でもここがかつては倉庫であったことなど、おそらく誰も気がつかないでしょう。
土木・建築イラスト制作会社(株)SD602の併設ギャラリーとして、2000年にギャラリーKINGYOをオープンされたご主人は、自らのデザインで倉庫を改修。「外部空間と内部空間のゆるやかなつながりを表現したい」と考え、広々とした外土間と内土間をガラス窓で仕切る、風通しのよい開放的な空間を作り上げられました。その「外部を内部に引きこむ」ようなデザインに心惹かれ、つい足を止めてしまう方がいらっしゃるのもうなずけます。
さらにご主人のこだわりは、閉廊後の佇まいにまで。「死んだように閉じるのではなく、眠っているように見せたかった」とおっしゃるご主人は、シャッターの代わりに木製の建具を設え、柔らかな雰囲気を演出されています。
そんな空間でご主人が紹介される作品は、モダンアートが中心。「常に努力、前進を続けていらっしゃる方の作品を展示したい」とおっしゃるご主人は、同時に、より多くの人にアートに触れてほしいと考えていらっしゃるそうです。「アートというと敷居が高いように思われがちですが、そんなことはありません。どうぞ気楽にたくさんの作品に触れてみてください」とご主人は微笑みます。
いとまを告げて表へ出ると、赤い看板を彩る丈高いつたが見送ってくれます。実はこのつたのなかに電柱が隠れていることも、取材を終えた私たち以外誰も気がつかないだろうと考えると、なんだか楽しい気持ちになるのでした。 (青秋部I&N)

取材当日は、蓑輪弘さんの1994〜1996年の作品を紹介する「背からの風景」という展示が開催されていましたが、4月24日(火)から一箱古本市当日の29日(日)までは、「記録」と題した西原在知さんの個展を開催。また7月3日(火)〜22日(日)には、最近『ブリキ男』を出版された、秋山祐徳太子さんと美濃瓢吾さんの二人展「ブリキ男と招き男」を開催されるそうです。詳しくはギャラリーKINGYOのHPをご覧ください。

*ギャラリーKINGYOご主人の愛読書
『死ぬときはひとりぼっち』レイ・ブラッドべリ著 文藝春秋
「ファンタジックな世界に惹かれ、時折手にとっては、ぱっと開いた頁の景色を楽しんでいます。」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

*ギャラリーKINGYO
文京区千駄木2−49−10
http://www13.plala.or.jp/sd602kingyo/
開廊時間 12時〜19時(会期最終日は17時まで)
休廊日  月曜日